赤城の細道
西田真哉
●「三日間の見える日」
「私はすべての人が成人してからすぐ2,3日、全く目が見えなくなり、口が利けなくなったらいいのに、と思うことがよくあった。くらやみは光のありがたさを、静寂は音の楽しさを教えてくれるからだ」
「目の見えない私から目の見える皆さんに一つの提案がある。すべてのものに、触れて感じて欲しい。明日、目が見えなくなると仮定して、今日あなたの目をフルに使ってほしい。
…すべての感覚の中で、私は見えることが最も美しいと思うのである」
気持ちよく晴れわたったさわやかな朝、玄関前に集まった参加者を前に西田さんによるヘレンケラーの言葉の朗読からワークショップは始まった。
●ネイチャーゲームと俳句づくり
一枚の写真が皆に配られた。隣の人とその一枚の写真を見つめる。小学校の校庭で撮られた美しい落ち葉の写真。「そこには何かが写っています。わかりますか?」。良く目をこらして見るとそこには葉脈に隠れたカマキリ(ヒナカマキリ・成虫です)が写っている。見つけられる人とそうでない人とに分かれた。「私達は同じものを見ていても、同じように見ているとは限らない。見ているということと見えているということは違うのですね。それでは今から皆さんを不思議の森へ案内しましょう」と、参加者一人一人にバンダナが配られ目隠しをした一列の部隊ができた。
西田さんの先導でゆっくりと玄関前から出発しネイチャーゲームの「目かくしイモ虫」が始まる。コンクリートの道路を横切り、少し急ながけを下って目の前の森に入る。足裏の感覚だけが頼りだ。感覚を強く研ぎ澄まして外の気配を感じようとした。5分ほど森の中を分け進んだところで目隠しをそっと外す。すっかり森の中へ入りこんでいた。暗闇から解放され見えた世界は光の差し込む緑の森。トンネルをくぐってきたかのような感覚だ。
「おつかれさまです。不思議の森へようこそ」−−突如、森の茂みにトトロのぬいぐるみが現れる。「さてここからの小道にはトトロ化した生き物(人工物)が隠れています。いったいいくつのトトロ化した生き物が隠れているのでしょうか? その数がいくつあるかを私にそっと教えて下さい。ある数以上見つけられたら合格ですよ。他の人に教えてはいけません。黙ったままで探しましょう」。トトロの森にはウサギのぬいぐるみといった見つけやすいものから、本物そっくりなゴム製のイモ虫や蟻、ビニール製の葉っぱなどが隠れている。
15メートルほどの小道を、ゆっくりと歩きながらじっと見つめる。するともみじの落ち葉の中に不自然(笑)な物体が隠れていたりする。足元ばかりではない。上を見上げると枝には美しい小鳥が休んでいたりする。自然にはない物を見つけようと目を凝らすと、森は普段見ているようで見えていない世界を見せてくれる。森が与えてくれる色彩の豊かさと美しさに気づかされる。じっくりと数えて西田さんに伝えると、「残念! その数の倍は隠れています。15個以上見つけられたら合格としましょう」という言葉が返ってきたりする。そして全員が2回挑戦。さっきは気がつかなかった葉っぱの影や木の枝に新しく見つけられたりすると、とても嬉しい。最後に全員で答え合わせをしながら、カモフラージュしたグッズを拾っていった。全部で25個のカモフラージュがあったことに驚く。
「どうして見つからなかったのかな?」「自然の生き物もこうしてみなカモフラージュしているのだね」「でも動かないから見つけにくいのでは?」「覚悟を決めた生き物も動かない。でも必ずどこかは顔を出している。それは外を見るためだったりする。ちょっと角度を変えるだけで見つかるものもあるね」こうしてネイチャーゲームの「カモフラージュ」というアクティビティが終了した。
不思議の森を抜けて再び青年の家の前の道路へ。今いた森を振り返る。「今から20年前、この道路に挟まれた小さな森に、赤城山に自生している100種類の樹木の苗を植えた。低地から高地へと生息地域に合わせて植えた苗たちは、今は立派に若い樹木となって森に馴染んでいる。そして森の成長に合わせて生き物たちも育っている。やまかかしという毒蛇もいますよ」。青年の家では、そうした環境づくりにも取り組んでいることを知る。
「それではこれから再び森の中に入りますので、まずはその前に明るい空の下で一句をしたためてみましょう」。秋晴れの美しい空の下で思い思いが好きな場所で静かに過ごした。そして次は林を抜けて裏山へハイキング。途中の橋で動物の足跡を発見。歩幅や爪あと、土に埋まった深さから大きな動物ではないかとみんなで考えた。何の動物の足跡か謎解きはおこなわず、謎は謎のままに残し目的地である「かえでの小経」へ到着した。赤や黄色のたくさんのもみじが枝と地面を彩る森の中、2回目の俳句タイムが始まった。静かな山里で自然とじっと向き合い言葉をさがす豊かな時間。それぞれがお気に入りの場所で同じ景色の下でじっとたたずんでいた。
集合の合図でネイチャーゲームの「私の木」のアレンジ「木のプレゼント」を実施。ペアになって相手に一本の木をプレゼントする。「この森の中でこの人にぜひプレゼントしたいと思う木を選んでください」。初めはパートナーに目隠しをしてもらって無言で誘導しながら、プレゼントしたい木のところまで案内する。そして、目隠しのままその木と出会ってもらう。木肌はどんな感触か、幹の太さは抱えられる大きさか、根っこの部分はどんな草が生えているのかなど、思い思いに手触りで確かめたら、今度は目隠しを外してその木を探しに行く。枝ぶりや幹の太さを思い出して一本一本手で確かめながら探す。見事再会できたら拍手をもらい正式にプレゼントされる。再会を果たすと嬉しいものだ。一本の木とこれだけじっくりと向き合うのも、なかなかない経験だ。木をずっと身近に感じることができるアクティビティであった。
●俳画風味
森の中でぞんぶんに遊んだら林道を抜けて自然学校に移動。いよいよ西田さんオリジナル
ワークショップ「俳画風味」の始まり。色紙大の白い画用紙とクレヨン、短冊2枚が配られ、俳画についての説明を受ける。「俳画とは排句を色紙に書いた時、後ろに描かれる背景の絵をいいます。いくつかの決まりがあります。自分の作った俳句の絵は描かず、人が詠んだ俳句を自分の絵に頂きます」。さっき作った二つの俳句を短冊に書き写したら西田さんに預け、俳画を描きに思い思い好きな場所に向かう。
描く絵は自由だ。今描きたいものを描けば良い。森に向かって開かれた木のベランダで描く人、もみじが奇麗な木の下で描く人、日の差し込むわたり廊下で描く人。それぞれ描き終わったら部屋に戻り、並べられたたくさんの短冊の中から、自分の俳画に一番ぴったりとくる俳句を選ぶ。それをクレヨンで自分の俳画に書き写す。こうして俳句と俳画が出会い一つの作品ができあがる。
最後は全員が円になって座り、一人ずつ作品を見せながら俳句を読んだ。2回繰り返して俳句を読んだら「詠み人は誰ですか?」と聞く。こうして初めて合作の相手がわかる。俳句が選ばれた人も、絵にぴったりとくる俳句を見つけられた人もとても嬉しそうだ。全員の俳句と排画が紹介されたら今日の振り返りを3人チームになって行なった。皆、朝集まった時よりも豊かで穏やかな表情になっていた。
ヘレンケラーの「三日間の見える日」の朗読から始まり、目隠しをして森の中に入った。カモフラージュのアクティビティや俳句づくりで自然といつもより長く向き合った。「見ているということと見えているということは違う」という西田さんの言葉を思い返す。「見えるという出会い」を、参加者はそれぞれのワークの中で感じることができたのではないだろうか。自然の美しさはいつもそこにある。私達がゆったりと見ることさえできれば、自然がくれるものをもっと感じることができるのだろう。「見える」という豊かさを日常の中でも持ちたいと思った。
●参加者の声
「ふりかえり」の時間では、参加者から次のようなコメントが出ていた。
「普段いかに自然と向き合っていないかを実感した。自然がくれる豊かさに驚いた。森の中でじっと座って紅葉の木を見ていたが光がおりなす色の美しさに感動した」
「木のプレゼントで目隠しをして森の中を案内してもらった時にとても安心感を覚えた。守られている安心感。人の温かさを感じた」
「五感が敏感になった」
「自然が今まで嫌いだったけど、このアクティビティを選んだら楽しかった」
「とても想像力と創造力をかき立てられた」
(レポート:池田珠美)