みっちり講義、ゆっくりトーキングストーン
中野民夫

中野民夫さんのワークショップは、1:みっちり講義「ワークショップとファシリテーション」、2:遊歩道を歩いてリラクゼーション、3:トーキングストーンの三部構成で行なわれた。
●第一部:みっちり講義
集まった人達それぞれが「この講義で聞きたいこと」を画用紙に書き出し、全員が輪になって書いた紙を見せながらの自己紹介から始まった。それぞれがどんな課題を持ってこの場に集っているかを確認した後、中野さんのオリジナルテキスト「ワークショップとファシリテーション」に沿って、スライドを見ながらの講義が展開された。その内容の一部を抜粋して紹介する。
【「ワークショップ」とは何か】
もとの英語の意味は「工房」「仕事場」「(共同)作業場」、いっしょに何かを作る所。それが演劇・美術・まちづくり・心理学などで発展。
【ワークショップの定義】
「ワークショップ」とは参加者自らが「参加」「体験」し、グループの「相互作用」の中で何かを学びあったり作りだしたりする、双方向的な学びと創造のスタイル。
【ワークショップという「場」の構造】
安心・安全な場の相互作用の中で、意義深い学びや創造が起こる。ワークショップとは、その中で安心してすくすく成長できるゆりかご。
(参考文献:『ワークショップ』岩波新書、『ファシリテーション革命』岩波アクティブ新書、『自分という自然に出会う』講談社)
講義の最後は、初めに全員から出された質問に、中野さんが全て答えていくという形で終了した。
●第2部:遊歩道を歩いてリラクゼーション
講義で使った頭を休め、遊歩道までの道を二人組みになって歩く。新鮮な山の空気でリフレッシュし、会話を楽しみながら森に向かった。森の中に入る所から、今度は一人で山道を歩いた。会話はせず自然と対話をしながら少し急な坂を登っていくと、丘の中腹にある茶屋に着く。ちょうど夕日が沈んだ後で、夕焼け空と赤城山の裾野が美しく広がっていた。
そこで中野さんの語りかけによる、静かなワークが始まった。「目を閉じて風の吹いている方向に身体を向けてください。そしてゆっくりと深呼吸をしてみましょう」。山の空気が身体中を満たしたら、目を開いてゆっくりと山並みを眺める。静かなる山に抱かれ、自分も景色の一部になったような一体感と自然がくれるパワーを身体いっぱいに感じた。それぞれのペースでゆっくりと下山すると、最後のワーク会場であるプレイルームに到着した。
●第3部:トーキングストーン
山並みが夕焼けに美しく映える時間。窓から差し込む夕暮れの明かりと静かな音楽が流れるホールで、参加者は思い思いに床に座った。「心がここにない状態から今ここに立ち戻るために呼吸を思い出しましょう。呼吸を通して内と外とのつながりを感じましょう。今ここで息をしている私を感じましょう」。
次に床に寝転がって音楽を聞きながら、ゆっくりと自分の呼吸に意識を向ける時間が流れた。今ここにある自分を、呼吸によって取り戻す。チベタンベルの静かな鐘の音が鳴り響く。全員が円座の形になって座る。いよいよ「トーキングストーン」が始まった。
まるい石を隣の人に渡しながら、その石の重さと感触を確かめる。
「この方法はネイティブアメリカンのやり方からきています。この石は皆さんの中央に置かれます。話をしたい人はこの石を取ってきてお話をしてください。話が終わったら石は元の場所に戻します。話ができるのは石を持っている人だけです。その他の人はただ聴いています」
「どんな話をしてもけっこうです」
「思えば昔から、人間は輪になって座り語り合い生き延びてきたのかもしれません。今こうしてここに生きていることも一つの奇跡です。私にとってワークショップの原点でもあるこのワークをここで行ないたいと思います。今から55分間は、石にまかせた時間です」
そこにあるものは石と人と場所だけだった。他には何も用意されていない。数十秒ほどの沈黙を破って一人の女性が石を取って話をし出した。
石と30人の参加者たちが、彼女の話に耳をすませた。聴くということを全体が一体となっておこなっていた。不思議な心地よさがあった。石が戻されると、しばらくしてまた誰かが石を取りに行き話を続けた。石を取って席に戻ると、皆安心したように静かに語った。自分の心に抱えているもの、今の仕事への自分の気持ち、家族や友達への本当の気持ち....語られることは悲しみだったり、気づきだったり、怒りだったり、喜びだったりするのに言葉はとても静かに発せられていた。場と時間を共有するという感覚があった。聴くということで、全員がその語りべの思いを支えていたからかもしない。
チベタンベルの鐘の音が静かに鳴り響き、石にゆだねられた時間が終了した。55分という時間がずっと短く感じられた。最後に中野さんから「話してくださった方、聞いて下さった方ありがとうございました」という感謝の言葉が語られ、この日のワークショップが終了した。
●ワークショップ参加者のふりかえり
この日の夜におこなわれた、参加者のふりかえりでの発言を紹介したい。
「ワークショップ全体として、プロセスをたどりとても自然に非日常的な空間がつくりだされていた」
「自己開示。ファシリテーターは人を信頼すること、それはつまり自分を信頼するということ。ワークの限界は自分の限界」
「トーキングストーンがなぜあの場で取り入れられたのか?」という問いに対しては、「ファシリテーターは到達点を誘導してしまうことがある。それは洗脳に過ぎないのではないかと思っていた。誘導をしないで促進する方法を教わった」「(安心する場とは?)を共有できた。安心、安全な場というのは促進するということにおいて大切な要素であると実感した」
「ゲーム的な感覚でつき動かされて話す。その時の自分を知るということが自分を楽にする。体験者としてそれを学んだ」
「自分を知る空間、見つめる時間を持てたのは久しぶりだった」
「中野さんは常に最後まで参加者のニーズを聞こうとしている。引き出しがあるのだなぁと思った」――といった意見が聞こえてきた。
最後に、「私やってみようと思う。今の職場でやってみようと思う。いろいろと大変なことはあってもやってみようと思う。みんなの話を聞いていて今そう思えた」と、晴れた笑顔になって語った女性の姿が印象的だった。「踏み出す勇気」は、人に聴いてもらうという体験によって生み出されるのかもしれない。あの場が、ワークショップが人に勇気を与えて次につなげる力を生み出すことを彼女の姿に垣間見た気がした。
●中野さんの言葉
トーキングストーンの時、ずっと背筋を伸ばし、目を閉じて表情を変えず、まるで修行僧の面持ちでそこに座っていた中野さんの姿が印象的だった。
ワーク終了後に、「どうしてあの姿勢を保っていたのか」聞いてみた。
「それは、あの場をホールドしないといけないからね」と答えられた。「どんな言葉が出てくるかわからない。それでも場を保つ力を誰かが持っていなくてはいけない。だからこのワークをやるのは、相当の覚悟がいる。そう簡単にはやれないですね。」と話してくれた。
「場の安全を守る力」を、その姿勢から参加者は体験として学んだのだと思う。中野さんにとってワークショップの原点であるトーキングストーンが、なぜ今ここで行なわれたのかを、参加者はそれぞれの原点として問い続けるのかもしれない。
(レポート:池田珠美)