物語
橋本久仁彦

●チェックイン
40人の大きな輪になって椅子に座る中、まずはウサギのぬいぐるみを持った橋本さんが自己紹介、続いて、橋本さんの右隣の人にうさぎが渡され、名前、あだ名(呼んでほしい名前)、目標を話すこと(チェックイン)からワークショップはスタートした。参加者の目的や動機はさまざま。「頭で考える方なので、感じるということをやりたくて選んだ」「プレゼンの時の橋本さんのクリクリとした目と、存在のシフト、新しい風景という言葉に惹かれるものがあったので」などなど。一人ひとりが口を開くたびに、間違いなく先ほどまで視覚的に捉えていたその人の印象が変化していく。
橋本さんが言葉を添えた。
「人は、その人が意識しているか、否かにかかわらず、周りに影響を与えているということを感じるだろう。つまりファシリテートしているのだ。“存在”は敢えて何かしようとはしない。だが、人は“存在”しているだけで影響しあい、つながりあい、そして、相手とのエネルギーの接点が増え、リレーションがついていけば行くほど影響を受けあっている。すべては一体なのだ。その事実をファシリテーターがキャッチアップできるか否かによって、その後の場へのかかわりが変わってしまう、ということを覚えておく必要がある」
やさしいが、熱のこもった声。
さらに、橋本さんは次のように言葉を続けた。「人はチャンネルをたくさん持っている。チヤンネルを変え、仮面を自由に付け替えることができること、つまり心理的に空間があることが健康なのだ。学校では一つしかチャンネルが開かれていない(から不自由さがある)」。そして、「事実は味方である。安全な場で、しんどさを通過できると、通過した前後では、明らかに何かがシフトする。これが『生き様のシフト』である。一体感を感じられれば感じられるほどパワーになるから、みんなが知り合うことができると良い。したい事をしていると、同じような仲間がふと気づくと横にいたりする。これが仲間、いわゆる同類で、彼らと仕事をしていると上手くいく。したいことをしていると『連動』していくのだ」
40人がさまざまな顔を覗かせ、全員の自己紹介だけで1時間。だが、このチェックインだけで“場”が大きく変化し、安全で安心できる場が創作され、繋がりを感じた。この40人がこの場に存在していることが必然であるような空気ができ上がった。これは、まさに、この空間へのチェックインという感じだ。
● 場のファシリテーション
座っていた椅子を移動させた上で、まずは次の4つをワークが行われた。
・自由に歩く→自由に歩きながら、出会った人と指先を触れ合って、相手の人をチラッと見ながら歩く→自由に歩きながら、出会った人と握手して、顔を見ながら歩く→自由に歩きながら、出会った人に自分の感じている感情をその人だけに聞こえるように耳元でささやきながら歩く。
・ 参加者の中から、敵、味方を想定し、敵と自分との間に味方の人を挟むように動く。
・ 2人で足の裏を付合い、肩を組んで立ち上がる。続いて、3人、4人、5人、10人でやる。
・ 10人1組となり、一人が動き回りながら倒れる。9人はその一人が倒れないように、支える。
ここまでのワークを終えて、また円になって座ると橋本さんが話し始めた。
「小さいグループ、大きいグループで話す人が変わる。=それも場のファシリテーション。普段私たちは、自分の思考は自分の中で完結していると思っているが、思考は外から入ってくるもの。“場”が変わることで、思考が変わる。だから“行動”が必要。そうすることでチョイスできる視点を持つことにつながる。“円で座ること”で体験が起こる。火を囲んで円に座ること――真ん中に火の神様がいて、そこから同じ距離で座ることで、みんなが対等であることを身体が感じている(体験が起きる)――これが空間のファシリテーションである」
●物語について
「物語とは、物が語ること。特定の惹かれる物語、好きなストーリーには、自分が『そう生きたい』『そう生きるべきだ』エッセンスが入っている。繰り返し繰り返し、見て、聞いて、頭の中を流れている。だから、(自分の中に流れている)ストーリーに耳を傾ける必要がある」。ここまで話された後、円の真ん中に色とりどりの布が置かれ、次のワークの説明がされた。
二人組を作り、一人が、自分が大切にしている物と、その思いを短く話す。もう一人が置かれている布を自由に使い、相手の人が語った大切にしている“物”になりきって語り始める。
このワークではレポート担当である私も参加したのだが、ペアの人にしばらく会っていない愛犬になってもらった。紫色の布を首にかけ、愛犬になりきった相手の人の第一声を聞いただけで、相手の人が愛犬に見え、愛おしさがこみ上げてきた。変哲もない紫色の布をかけて前に座っているだけで、マジックのように深い癒しと感動が起こった。私たちは“物”に託した方が深いところで聞けるということがあるようだ。それは、“私”という自我を通過しないからなのかもしれない。
このワークのふりかえりに参加者が発した「少ない情報の中で一生懸命やることで相手が喜んでくれたことに感動した」という言葉に、橋本さんが少し強めの声で「相手が感動することで、ファシリテーターも喜ぶ。両者が笑う体験がある。そしてカウンセリングなどの治療には、治療する方、される方が存在する。むしろ治療しようとしないほうがいいのかもしれない。我々にはもともと知恵がある。それが、ただ出てくればいいのだ。物事のキャッチの仕方がシフトすればいいのだ」と話されたのが印象的だった。
● 鳩(全体性の力)
「朝、ハトにえさをやって観察しているときに、ハトは何の打ち合わせもしている様子がないのに、ほぼ一斉に飛び立つ。そこで全体性の力の影響力に気づいたんだ」という話から、次のワークが始まった。ワークの内容はシンプル。6人組が一列になり、前に進み、言葉を使わずに一緒に止まるというもの。まるで打ち合わせをしているように、ピタリとそろうチーム、探りあいのチーム、一人遅れて笑いを誘うチームなど各々。そのことで周りに笑顔を作る。これもすばらしいファシリテーションだ。そしてハトから気づくという洞察力もすごい。
6人がひと組となり、数メートル離れた壁のところまで行って、各々が身体を使って好きな形を作る。そしてその6人が作った形を見て、観客側がストーリーをつける。
次に、観客側がテーマを与え、それに応じて6人が壁まで走っていって形を作る。何かがとても可笑しくて笑いが止まらない。そして、本当に不思議なことだが、好き好きに創られた“形”が、言われてみればそう見えるかもと思えてくる。
橋本さんは次のように締めくくった。
「見たい人が見たいように投影する。信頼してよいのは、観客のイメージ、そして、形の持っているパワーだ。場所によって私達の思考は変わる。だから壁に近づいた現場で何かが起こる。そして立ち尽くしても意味がある。何も考えずにやることの表現力、何も意味がないことの可能性がそこにはある。そして、ただ1つの条件は『存在』しているということなのだ」
● ワークショップ後のふりかえり
食事を終え、場所を変えて受講者だけでワークショップ後のふりかえりを行った。参加者が、ふりかえりについての進め方についての意見を次々に発表。お互いがファシリテーションしていることが目に見えて分かる。存在を認め合っているという表現がピンとくるほど、4時間前と同じ空間があっという間に再創作され、ふりかえりは進められた。橋本さんが伝えられたメッセージは確実に参加者に届いているようだった。
(レポート:内村直美)