ジェンダーと自己表現
川喜田好恵

普段は仕事上、女性と関わる機会の多い川喜田さん。だが今回は男性9名、女性4名と、男性の参加者が多い場となった。男性からどんな意見や反応がくるのかを期待し、ワークは始まる。
●「ジェンダー」って何?―身近な例から―
「なぜこのワークに参加したのか」という問いからスタート。「川喜田さんに会いたくて」「アサーショントレーニングなどのノウハウを学んで、現場で生かしたい」など、参加の動機はさまざま。最も多かったのは、「ジェンダー」を「なんとなく」理解した気になり、その「なんとなく」を自分なりに理解したくてこの場にいるという意見だった。そんな参加者の疑問を自分なりに理解してもらうために、「ジェンダーって、なに?」というワークが始まる。
まずは、川喜田さんが「ジェンダー」についての説明をおこなう。「ジェンダー」を理解するためには、「性」を語らなければ始まらない。一般に「性」とは生物学的側面と社会・文化的側面に分かれる。その後者が「ジェンダー」と言われている。生物学的側面と聞くと、難しく考えてしまうが、川喜田さんの説明後にその分野を専門としている参加者の方から説明。お互いが理解できるように進めていくのもワークショップだからこそできること。さまざまな立場で集まっていることのメリットでもある。
さて、「ジェンダー」を川喜田さんの言葉に変えるなら、「女性・男性に関する性の区別の中で、社会的・文化的に決められてきた区別とそこから来る格差」のこと。なんとなく分かったようでまだまだ理解できたとは言えない空間。
ということで、より理解を深めるためのワーク「ジェンダーチェック」の始まりである。
「ジェンダーチェック」とは、27項目の考え方に対し、自分は該当するかどうかをチェックするものだ。例えば、「プロポーズは男からしても、女からしてもいいと思う」に該当するかどうかをチェックする。このチェックを通じて、参加者は「ジェンダー」的影響を受けているかということを意識する。まずは各自チェックし、その後4つのグループに分かれ、意見を交換しあう。最後に、各グループで話されたことを全体で共有しあう。
その中で出た、参加者と川喜田さんと「ジェンダー」についてのやりとりを一つ取り上げる。
参加者:新潟では昔から雪下ろしは男がするものと文化の一つとして根付いているが、これは「ジェンダー」でしょうか?
川喜田さん:女の人の方が男の人より体力がある例は多いです。つまり、「男だから」「女だから」というように性によって固定化させてしまうのは、「ジェンダー」であり、一方で「私に体力がないので雪下ろしはできない」というのは、個人としてどう主張するかということなので「自己表現」ということになります。
●「ジェンダー」って何?−アメリカの状況から−
次に、「アメリカの男性、女性が社会的にどう扱われているか」をテーマにしたドキュメンタリービデオを題材に「ジェンダー」の理解を深めるワークが始まった。同じ職種、経歴を持つ男女を同じ状況に置き、車や電化製品を購入する状況、また職探しなど、さまざまなシチュエーションでの行動を見る。車を購入する際の店員の対応の違い、提示される金額の価格差。そのビデオから映し出されるものを見て、どのように感じたかをグループに分かれて意見を交換する。「男」「女」というだけで、購入する際に価格差が生じていることに対し驚きの声が上がった。2人に対する店員の態度の違いを指摘する参加者もいた。
(レポート担当からちょっと一言)
参加者は同じビデオを見ても違う感じ方をする。しかし、そこには講師の求める気づきというものがあり、講師の求める空間がある。そして、ワークを通じて講師の求める空間通りに場は形成される。求める空間と参加者が違う気づきをし、空間の流れが変わったとき、講師はその空間を理解し進める。その空間を読み取り進めていく力こそ、川喜田さんのファシリテータとしての役割が発揮される。
●自己表現
「ジェンダー」のワークを通じて参加者の理解も深まったところで「自己表現」のワークにシフトしていく。
「男だから」「女だから」というように一つのカテゴリで規定されてしまう状況から自由になるためにどうしたらいいのでしょうか? と川喜田さんは、自分の親とのやりとりの経験を話しながら、「当たり前のことが当たり前でない社会だからこそ、当たり前のことを言わないといけない」と「心の基本的人権」を訴える。
(以下は「心の基本的人権」を抜粋)
第1条 自分自身である権利
第2条 自己表現する権利
第3条 気持ちや決定を変更する権利
第4条 ありのままの感情を感じる権利
第5条 不完全である権利
第6条 Noを言う権利
第7条 Yesを言う権利
第8条 全てのことには、責任をとらない権利
第9条 間違いや失敗する権利
第10条 選ぶ権利
ワーク:第11条、第12条を考えよう!
2-3人のグループに分かれ、第11条、第12条を考えた。
(以下は参加者から出たものを一部抜粋)
・ 一人になる権利
・ やり直す権利
・ 時間を使う権利
・ 助けてって言って良いんだよっていう権利
・ ありのままでいる権利
・ 指摘する権利
・ 待つ権利
「人からの期待に縛られてしまう現状があるから、『期待に応えない権利』があっても良いと思う」と最後に川喜田さんが考える権利を話した。
●自己表現を理解する
川喜田さん:コップに水が入っています。これをどう表現しますか?
参加者:「コップに水が半分しか入っていない」「あとコップに半分も水が入る」「空気が半分入っている」
川喜田さん:単純な例ですが、これはものの見方を変えるための重要な気付きの一つです。ものの見方を変えることを「パラダイムの転換」と言いますが、その気づきをどうパラダイムシフトするかということが自己表現では重要になります。
ジェンダーから自由になるためのステップ、「アサーショントレーニング」の手法を用いて、ある状況をテーマにした対応について
1)ノン・アサーティブ(自己表現的でない)
2)アサーティブである(自己表現的である)
3)攻撃的
と3つ分けたらどれに当てはまるかというワークを行なった。
参加者の議論が深まった事例を一つ取り上げる。
状況1:友人と一緒に外出しました。みんなでどの映画をみようか決めようとしています。中の一人が、あなたが見たくない映画をみようと提案しました。
あなたは言います:
a. あなたは、いつも、私の嫌いな映画を選ぶんだから…。自分の事しか考えてないのね。利己的よ!
b. それは見たくないわ。SMILE劇場でやっている方の映画はどう?
c. 映画のことは良く分からないんだけど…。でも、もしあなたが見たいのなら、そうしましょうか?
上記の項目で一番参加者同士の議論が深まったのは「a」と「b」だった。「アサーティブである」「攻撃的」と考える参加者に分かれた。参加者同士ロールプレイングをしながら互いの意見を理解しあっていた。この場では、互いに意見を押し通すのではなく、互いの意見を聞きあう空間が参加者同士に作られていた。
最後に川喜田さんは、「このワークを通じて、それぞれの感じ方が違うと言うこと、自己表現の考え方として自分の意見をテーブルに出すのと通すのは違うということを理解してほしい。自分の気持ちを言うことは大事なことです。」と参加者へ伝えた。
●参加者同士のふりかえり
以下、参加者から出た意見を一部抜粋する。
「ジェンダー問題を知ると逆に意識していなかったジェンダー問題が顕在化し、問題を大きくしてしまっていることもあるのではないか。」
「ジェンダーを理解するということは、人の痛みを知ることでもあると思う。」
「アサーショントレーニングを通じて、人それぞれ感じ方が違うと言うことを改めて感じた。」
その他ワークに対する意見はあったが、参加者は確実にこのワークを通じていろいろと気付きを得ていた。
(レポート:山口香)