西原由記子 インタビュー
タブー視しても自殺は防止できない
聞き手:青木将幸
マーキーこと青木将幸です。2008年12月、東京自殺防止センターの西原由記子さんにインタビューを試みました。

西原 由記子(にしはら ゆきこ)
国際ビフレンダーズ・東京自殺防止センター 創設者
牧師の妻として教会の活動に関わりながら、1972年「関西いのちの電話」創設メンバーに。研修プログラム主事として活躍。78年に「自殺防止センター(大阪)」を設立し、98年には東京自殺防止センターを設立。電話での応答を通じて、死を選ぼうとする人と、いかに共にいることが出来るかを模索してきた。聖マーガレット生涯教育研究所(SMILE)のスタッフでもあり、「Tグループ」トレーナーとしての活動歴も長い。 >プロフィール・ページ
直面しないと自殺は防止できない
──「東京自殺防止センター」、ハッキリしたネーミングですね。
西原由記子:そうなんです。自殺を防止する。そのものずばりの名称にしたことは、良かったと思っています。はじめの頃は講演によばれても、「西原さん、なにか他の団体名はないんですか?」「<愛の電話>とかは?」なんて言われたりしていました。
──ここまでストレートな名称だと、かえって相談の電話がこなかったり、ボランティアも集まらないんじゃないかという声もあったと、著書『自殺する私をどうか止めて』で拝見しました。
西原:えぇ、そうなんです。でも、実際は電話もかかってくるし、ボランティアも集まってきた(笑)。なかなか「自殺」って言えないんですよ、みんなが。
──どうして?
西原:怖くて言えないんですよ。みんなタブー視していますからね。でもタブー視することでは、自殺を防止することはできない。直面しないと防止できないんです。これは活動をしていてすごくそう思いますね。
だから相談の電話を受けていても、死にたい人かどうか分からない時は、相手にお尋ねしないといけない。
「もしかしたら、死にたくなっていらっしゃいますか?」とか。
──ちょっと怖い質問ですね。
西原:ボランティアの研修をしていても、ここがなかなかできない。そんな風に問うて、もし追いつめてしまったら、その人死んじゃうんじゃないかと思いますでしょ?
で、そう考えると「まさか、あなた死なないわよね」って、条件付きの質問をしちゃう。そうしたら「あー、この人は分かってくれないなぁ」と相談者が思っちゃう場合もある。そんな時は、いい加減な返事しか返ってこなかったりするわけです。
──条件をつけて問いかけてはいけない。
西原:私たちはね、「無条件・無批判で聴きましょう」ということをやってます。これがなかなかできない。でも、その理想をいつも掲げているんです。
そうそう無条件では聴けないですよ。色々言いたくなったりね。「それはあなたのワガママでしょう!」とか。
──「あなたにも悪い点はあったでしょう」とか?
西原:そうそう。そんな状態でね。「今日は聴けた!」なんていうことはないですよ、ホントに。私にとっては、生涯つづく課題だと思います。
──「まさか死なないわよね?」じゃないとしたら、具体的にはどんなふうに聴いていくんですか?
西原:話を交わしていると、いろんなサインがあるんですよ。「明日がなかったらいい」と言ったり、「このまま眠り続けたい」とか「どこか遠くへ行きたい」とか言ったりしてね。
そこで「どこへ行きたいの?」なんて聞いたりすると、「いやぁ温泉にでも」と返ってくる。
「どこの温泉?」…「そう、どうして行きたいの?」…「あら、ご主人と一緒に行った思い出のところなの。今、ご主人は?」…「そうだったの。2年前に亡くなって、、」なんていう風に聴いていきます。
要は後追いをしたい、ということなんですね。独りになって、孤独で仕方ないから私も、、という感じになっている。そのあたりで「ひょっとしたらあなた、ご主人のところに行きたい。死にたいということですか?」と、きちんと尋ねないといけないんです。
──タブー視せずに、直面してゆく質問ですね。
西原:面と向かわないといけないことなんですね。こうやって向き合うことは、並大抵のことじゃない。なので、自殺防止センターを立ち上げるときには、毎晩のように研修をやりました。
真っ先に逃げ出した自分がそこにいた
──どんな研修をやってきたんですか?
西原:例えばこんなことがありました。2人で座ってテープレコーダーを置いてね、電話相談の研修をしたんです。そうしたら相手方がこう切り出した。
「あのー、、、サヨナラを言いたくて電話しました」と。
それに対して、私ったら
「どなたにですか?」と聞いてしまった。
その時点で私は「ストーップ! ごめーん」って言って中断ですよ。私は、自分が逃げていることがすぐに分かった。ほかの誰でもない私に電話口で話しているのに、「どなたに?」なんて言ってしまってね。真っ先に逃げ出した自分がそこにいたわけです。それはもうショックでね、強烈でした。頭ではやらなきゃと思っていることが、できていなかった。
そんなこともあってね、電話でも、面接でも、こうやってインタビューを受けるのでもそうですが、「今・ここを大切に」と思うようになったわけです。本にサインしてくださいって言われたときには、それしか書かないんですけどね。やっぱり「今、この出会いを、生きた出会いにしたい」という、そういう切なる願いが私の中にありますね。
とにかく誠実に、正直に相手と関連する。いい格好しても、すぐにばれますからね(笑)
問われているのは私自身なんだ

──西原さんと、ワークショップ的なものとの出会いは?
西原:「いのちの電話」のトレーニングのなかで体験した、ロールプレイとかが最初ですかね。でも、ちょっと違和感もあって、、、。
──どんな?
西原:たくさんの人がいてね。1グループが30人ぐらいいたかな。2人が前に出てロールプレイするんですけどね。有名な先生が「ファシリテーター」と称してグループを回ってくるわけですよ。
そこで、みんなが感じたことを言わせないで、先生がばーっとコメントばかりをしてゆく。もう私、かーっとなりましてね。腹が立つこと、腹が立つこと(笑)。
偉い先生で、カウンセリングを職業になさっていたり、「人を育てるんだ」とおっしゃってるのに、全然分かってない!
そもそも1グループが30人なんて、どういうつもりなんでしょうか?
前に出てロールプレイをする2人も、先生が連れてきたスタッフがモデルのようにやってたりして、参加者自身の学びにまったくならない! なんてことと腹を立てて、真っ向から言ってしまいましたよ(笑)。
──ということは、「いのちの電話」でのトレーニング以前に、違う質のグループ体験があったということ?
西原:何が最初なのか、自分のなかでもはっきりしてませんけどね。やっぱりキリスト教の牧師の家内ですから、色々なグループとの関わりがありましてね。婦人会があったり、青年会があったり、子ども達の教会学校があったりしてね、割とグループを持つ機会はあったんです。
そのなかで、グループにおいて自分が何をしないといけないのか、グループでどういうことが起こっているのかを見る目は、やっぱり培われてきたのかな。
もっと意識してグループのことを学んだのは、「いのちの電話」時代ですけどね。立教大学のJICEがやっていた、系統だったトレーニングの体験もありましてね、それが大きかった。それを引き継ぐカタチで、SMILEができていったりもしたわけです。
──Tグループ(トレーニング・グループ)が、西原さんに与えた影響は何でしょう?
西原:私にとって、ですか?
グループの中では、個人個人がユニークなものを持って集まりますよね。で、その人たちが自分らしく発言し、自分らしく行動をする。周りの人たちもそのことを認めてゆき、認められてもゆく。
そういうことが起こってくると、個人の成長と共にグループの成長が起こります。
その中でファシリテーターは一人ひとりをよく見て、いろんなデータを自分の中に持って、必要な時には介入しないといけない、ということを学んだことでしょうかね。
間違ったデータで介入したりすると、とんでもないことになるぞ、ということも学ばせていただきました。
ある人のネガティブな情報ばかりを集めてしまう人もいると思うんです。でも、相手をやっつけることが目的ではないですからね。相手をニュートラルに、かつ、その人らしいグループへの貢献がどうできているか、という点も見ないといけない。
そういう点で、結局のところ「問われるのは私自身なんだ」っていうことに気がつきましたね。
──私自身、ですか。
西原:トレーナーやファシリテーター自身がね、スタンスというか倫理観というか、人間観というか。そのへんがちゃんとしてなかったら、出来ないなぁと思いました。
「ちゃんとしている」なんて、非常にあいまいな表現をしていますけどね。これでいいのか、悪いのかってことじゃなくて、やっぱりそこに存在しているということが、お互いにどう影響し合っているかを、「ちゃんと掴んでおく」ことが大切なんじゃないかと思います。
【おわり】
西原さんお薦めの本:
「ビレッジから学ぶリカバリーへの道
精神の病から立ち直ることを支援する」マーク・レーガン
